恋の罠は酷く切ないけど甘い
「苦手なものはありますか?」
目の前の席に座る藤本社長はメニューを見つつ、私たちに声をかけてくれる。
「私は大丈夫です。月城は?」
パタンとメニューを閉じながら所長が私に視線を向ける。
ざっとメニューを見ると、正統なイタリア料理のようだ。エビだけアレルギーがあるが……。
「大丈夫……」
そこまで言いかけたところで、藤本社長がギャルソンに声をかける。
「エビを彼女は避けてください」
「かしこまりました」
そんな会話をしている彼に、驚いて目を見開いてしまう。私がエビアレルギーだと話したことなんてあっただろうか。
その間に、メニューやワインが決まったようだった。
食前酒に始まり、美しいウニやズワイ蟹にチーズを合わせた前菜。
見ているだけでも美しい料理の数々。そしてそれに合わせたワインが運ばれてくる。
接待などで飲むこともあるので、アルコールは嗜んでいるが、現実味のないこの空間に知らないうちにアルコールが進んでしまう。
メインが運ばれ来た頃には、かなり酔いが回ってきている気がしてワイングラスに伸ばした手を戻す。