恋の罠は酷く切ないけど甘い
「久しぶりだね。元気そうで安心した」
続けられたそのセリフにどう対処するべきかわからず、ヒュと息が漏れた。
自分の彼女の妹だからなのか、彼は高校の時、私のことを”志波ちゃん”と呼んだ。

今までずっと月城さんだったのに、ふたりきりになった途端の呼び方に、私はもう混乱するしかない。
きっとアルコールを飲んでいなければ、まともにこの場にいられたかもわからないし、もちろん彼の顔がみれなかったと思う。

少しだけ思考が鈍っていた私は、ゆっくりと顔を上げて彼を見ると、まっすぐに見つめられていた。

元気そうと言われれば、その通りだが、あの日以来の会話なのに、気まずさもなさそうな彼。

「元気です」
視線を落とし、私はそれだけを答えた。何を知っていて安心したのかわからないのだ。
混乱しても仕方がないと思う。

「それに立派になったな」
しかし、穏やかに会話する彼に私がこんなに引きずっていたことなど、なんの意味もなかった気がしてくる。

本当に過去のことなど忘れ、昔話をしているにすぎないのかもしれない。

確かに、もうそれほどの時間が経ったのだ。
私こそいい加減にしなけばいけない。
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