恋の罠は酷く切ないけど甘い
「ありがとうございます。彰斗先輩こそご立派になられましたね」
なんとか冷静さを取り戻し、顔を上げてそう伝える。
あの日、姉である麻美に嵌められただけで、彼にはなんの落ち度もないのだ。
ただ、誤解をされただけ。今はもう過去の話だ。
「ありがとう。志波ちゃんはずっと春元さんのところに?」
「はい。玲衣さんは大学の時の先輩なんです。その関係で」
普通に話せていることで、もう一度気を取り直して私はフォークを手にして肉を口に入れる。
「玲衣さん……ね」
「え?」
小さな声で聞こえづらくて、私は彼に問い直す。
「なんでもない。それで今はどこに住んでるんだ?」
「結構遠いですよ。電車で四十分ぐらいはかかります」
そんなたわいもない会話に気が緩んでいく。
「実家には?」
「帰ってませんね……帰れません」
つい、言ってはいけないことを口にしてしまい、私は口を閉ざす。まだ、もしかして姉と付き合いが続いているかもしれない。
姉は絶対に外では完璧な人間を装っているはずだ。私が悪く言えば、またできの悪い妹がなにかを言っている、そう思われてしまう。
もう過去の話はしたくなかったのに、自分から言ってしまったことに後悔する。