恋の罠は酷く切ないけど甘い
「それは、どうして?」
「昔のことは忘れました。藤本社長は姉とは今も?」
付き合ってるんですか? その言葉を避けてしまったが、彼は気にしていないようでワイングラスに手を伸ばした。
「ああ。久しぶりに君の話題が出た」
「え? 私の?」
驚いて彼を見ると、真剣な瞳がそこにはあった。高校の時とも、今日、話していたときとも違う雰囲気に私はドキッとしてしまう。
そして実家から着信があったことを思い出す。
「あの、それはどういった……」
そこまで聞いたところで、遠くから玲衣さんの声が聞こえた。
「時間切れだな」
小さく呟くように言った後、藤本先輩はまっすぐに私を見つめた。
「志波、この後俺に時間をくれ」
「え?」
呼び方も、話し方も違う彼に私は啞然としてしまう。
「先に春元さんを帰す。ここに残ってくれ」
そんな、どうして。私と出会ったことは偶然でしょ?
訳が分からず混乱する私をよそに、それを問う前に、玲衣さんがにこやかに戻ってきてしまった。