恋の罠は酷く切ないけど甘い
「さあ、タクシーを」
すでに止まっていたタクシーが扉を開けて待っている。
この状況に玲衣さんは小さく息を吐く。
「必ず私の部下を送り届けてください。それではまたよろしくお願いします。月城、また月曜日に」
玲衣さんはタクシーに乗り込むと、行き先を告げている。
今にも閉まりそうなタクシーのドアに、私はキュッと唇を噛んだ。

「お疲れさまでした」
これ以上、この場で何かを言うことはできず、タクシーに小さく頭を下げた。

玲衣さんの乗ったタクシーが見えなくなったが、私は怖くて後ろを振り向けない。

今から聞かされる話もだし、藤本社長とふたりきりということに耐えれる気がしない。

でも……。

せっかく、今順調に生きているのに、また姉が何かをしようとしている可能性があるのなら、それを避けるためにも聞いておきたいのも事実だ。

「志波ちゃん、きちんと送らせる。だから話を」
後ろから聞こえた声に、そろそろと振り向くと、真っ直ぐに見つめられていた。

気まずさと、まっすぐに見つめられる瞳に対する羞恥心。いろいろな感情が入り混じり、私はふいっと横を向いて口を開く。

「わかりました」

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