恋の罠は酷く切ないけど甘い
どこか店に行くかと思った私だったが、彼に連れてこられたのはホテルの一室だった。

ドアを開けた瞬間にわかる、とても広い部屋。目の前には玄関ホールがあり、その奥にはいくつもの扉。

「あの!」
あろうことか、ふたりきりでホテルの部屋にいるなど考えられない。
そんな気持ちから声を発すると、彼は少し苦笑してみせる。

「話が話だから。誰にも聞かれたくないんだ」
私の言いたいことを理解したようで、彼は穏やかにそう伝えてくる。

「すみません……」
ーー最悪だ。今の私の言葉は自意識過剰以外のなにものでもない。

藤本社長に通されたリビングからは、先ほどと同じ東京の夜景が広がっている。
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