恋の罠は酷く切ないけど甘い
そこに十人は座れそうなソファセット。そこに促された私は浅く腰を掛けた。

「もう少し飲む?」
慣れた手つきでワインを開けている藤本社長が、あまりにも絵になりすぎていて目を奪われそうになるが、慌てて首を振る。

「じゃあ、コーヒー?」
ワインの瓶をミニバーに置きつつ、私に問いかける。
早く話を聞きたくて、私は一番時間がかからないだろうと、ミネラルウォーターをと伝える。

それに、これ以上アルコールを飲んだら、どうなるかわからないし、先ほどのアルコールを抜きたい。

私の答えに冷蔵庫からミネラルウォーターを取ると、ソファに戻ってきて手渡してくれる。

「ありがとうございます」
お礼を言ってそれを開けようとすると、あろうことか彼は私の隣に腰を下ろした。

もちろん間は空いているが、こんなに大きなソファだ。テーブルを挟んで座るかと思っていた。

落ち着かなくなってしまうが、また一人で意識しているようで、私は何も言わずミネラルウォーターを口にする。

少しの無言の時間の後、藤本社長は少し考え込むような表情をした。

「志波ちゃん、俺と結婚しないか?」

「え?」

今なんて言った? 今度こそ幻聴かと思うその言葉に、私は持っていたペットボトルを下に落としてしまった。
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