天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
 今夜も雲朔は訪れた。

 相変わらず、気おくれするほど整った顔立ちだ。でも、もしかしたら中身は鬼かもしれないと思うと恐怖よりも怒りが湧き上がってくる。

(雲朔を取り戻すのよ!)

 強い決意を持って、雲朔に対峙した。

「華蓮、会いたかったよ。日中、職務を放り出して華蓮に会いに行きたいと思う気持ちを抑えるのが大変だった」

 雲朔は恥ずかしげもなく甘い言葉を放つ。

「ありがとう。では今日は、いつもより長く一緒にいない?」

 私は心の内を悟られないように、偽りの笑顔を浮かべて言った。

「それは嬉しい提案だ」

 雲朔は不審に思う様子もなく、心から嬉しそうな表情を浮かべた。

(今、私と話しているのが鬼だとしたら、なんて白々しいのかしら)

 部屋の奥に雲朔を案内して、用意していた酒肴を卓に並べる。

「お酒も用意してくれたのかい? ありがとう」

 卓の前に座った雲朔に、小さな杯を持たせ、上等な酒を注ぐ。
< 104 / 247 >

この作品をシェア

pagetop