天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
「華蓮は飲まないの?」

「私は飲めないから。あ、毒見役が必要かしら? ごめんなさい、気がまわらなくて。今呼んでくるわね」

 立ち上がろうとした私を制し、雲朔は穏やかな微笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ。たとえ毒が入っていたとしても、華蓮が注いでくれたお酒を他の人に飲ませたくはない。これは俺のだ」

 雲朔は嬉しそうにお酒を一気に仰いだ。

 まるで、私に殺されるなら本望だと言いたげな態度。

 それほど愛していると言いたいのだろうが、逆に恐怖だ。

 満足気に飲みほした雲朔を見て、思わず苦笑いが零れる。もちろん、毒など入っていないので、空になった杯にもう一度酒を注ぐ。
「ねえ、雲朔。覚えている? 私たちが川で溺れたこと」

「もちろんだよ。あの一件で婚約が決まったのだから」

(ちゃんと知っているのね。でもどこまで知っているのかしら)

 懐かしい思い出話をしているように見せかけて、慎重に探りを入れていく。
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