天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
「この真眩鏡は、山を下りる時に師匠から貰ったものなんだ。本当に不思議な人だった。師匠との出会いがなければ、今の俺は存在しない」

 雲朔は懐かしそうに真眩鏡をなでた。

 雲朔の過去は、にわかには信じられないような出来事に満ちていた。

でも、作り話だとは思えなかった。雲朔は天に認められた人物なのだ。

仙人のようなあの老人との出会いが、それを物語っている。

まさか雲朔が皇帝になるなんて、と思っていたけれど、今では納得できる。

雲朔は知力、体力ともに、誰よりも優れた人物だった。皇帝になるべくして産まれた男だったのかもしれない。

 そして、罪のない多くの女官や後宮妃を殺したのが雲朔ではなくて良かったと心から安堵した。雲朔は皆を必死で救おうとしていた。それがわかっただけで、雲朔への恐怖心が消えていく。

雲朔は、優しい雲朔のままだった。
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