天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
 いつものことなので、華蓮は苦笑いしているが、嫌がっている様子はない、と思う。そうであってほしい。

 むしろ、俺を心待ちしていた様子が美しい瞳に表れている。これは恋する目だ、と思う。そうであってほしい。

「雲朔、おかえりなさい」

 華蓮は、胸元が開いた練り絹の衫襦(さんじゅ)に、繊細な綾糸(あやいと)で織りあげた半臂(はんぴ)を妖艶に着こなしている。
華蓮の美しさは筆舌に尽くしがたい。どんな言葉で形容したとて陳腐になってしまう。

 まるで天女の羽衣のような出で立ちなので、目のやり場に困る。

 こんな格好を他の男に見られたら、怒りでどうにかなってしまいそうだ。だが、この姿は夫である俺のみの特権だ。

 俺は華蓮を抱きしめ、甘い匂いを吸い込んだ。

(あ~、たまらん)

 冷徹皇帝と怖れられる俺が、女性を抱きしめながら、おっさんみたいなことを心の中で漏らしているなど、誰が想像できようか。絶対に心の声は誰にも聞かれたくない。特に華蓮本人が聞いてしまったら引かれる自信がある。
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