天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
  私の言葉に、老人はコクリと頷いた。

「それだけ強い悪霊になれるのは、そやつしかおらぬだろうな。皇帝の座を奪い、多くの罪なき人の命を奪った」

「死してなお人々を苦しめるなんて酷すぎます」

 私は悔しさに、ぐっと拳を握った。

 八年前のあの惨状は今でも脳裏に焼きついている。落ちた軒轅鏡から流れ出る赤い血。

 理不尽な最期を遂げることになった皇帝と、必死に戦った私の父。そして、惨殺された後宮妃たち。

 彼らが一体なにをしたというのだ。たった一人の欲深い人間のせいで無慈悲に命を奪われ、盾公は簒奪帝となり私欲の限りを尽くした。たくさんあった国費を使い込まれ、民は重い税を払い、後宮妃たちや側近の文官たちは奴の最期に巻き込まれた。

 ようやく死んだと思ったら、今度は悪霊となり人々を襲い来る。こんな理不尽なことがあるだろうか。

「簒奪帝のやったことは怖ろしいことだ。悪霊は常に業火で焼かれているような痛みと苦しみを伴う。奴の魂はこれから何万年、何十万年、永遠に苦しみ続けるだろう。どんなに終わらせてほしいと願っても終わることはない苦しみだ」
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