天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
 もちろんそれは俺も同じだ。親も、兄弟も、信頼する家臣たちも、全てこいつに奪われた。胸の奥に仕舞っていた憎悪が膨れ上がる。

顔を見るだけで吐き気がするくらい憎い。憎悪で頭がおかしくなってしまいそうだ。

「簒奪帝、いや、盾公(とんこう)」

 久しぶりに奴の名前を口にした。簒奪とはいえ帝がつく名を口にしたくなかった。あいつはもう、帝でもなんでもない。大量虐殺を犯した罪深き人間だ。

「どうしてあいつの顔が浮かび上がる」

 顔面蒼白になりながら雄珀が呟く。

「黒幕は盾公だったということだろう。死してなお、俺たちを苦しめようということか」

 髑髏(ドクロ)のように人相の悪い顔が空に浮かび上がっている。

 盾公のくぼんだ目、鷲のように湾曲した鼻、そして歪んだ薄い唇。

 白い煙は奴の特徴をしっかりと映し出していた。顔だけの盾公は、まるで業火に焼かれているかのように苦しみ悶えていた。しかし、その苦痛に歪んだ顔が、逆に怖ろしさを増長させていた。

 お前らも共に苦しむがいいと言っているようだ。

 武官たちはあまりの怖ろしさに尻込みしている。無理もない、盾公の顔の形をした白い煙は、今にも俺たちに向かってきそうだった。切り裂こうにも実態がないのだ。
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