天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
会議が終わり、皇帝の私室で一人静かに執務机に座りながら仕事に打ち込む。

執務机の目の前の壁には、大きな絵画が飾ってある。絵師に描かせた皇后の人物画だ。

『華蓮はもっと内側から輝くような美しさだ!』

 と散々文句を言ったら、どんどん本人からは遠くなっていってしまった。

これだけ大きな絵画なのに、現皇后だと気づく者がいないというのは、ある意味幸運だったのか。

私室に妻の人物画を飾る夫は、世間的にはどう映るのだろう。まあ、臣下に引かれようと痛くも痒くもないのだが、華蓮本人に引かれるのは辛い。

ちなみに華蓮の人物画を私室に飾っていることを本人は知らない。

それに、執務室の机の中に、華蓮が以前使っていたかんざしや、結婚式で口をつけた小さな盃(さかずき)など、華蓮に関する思い出の品が大切に保管されていることなど、知る由もない。

さすがに嫌な顔をされることくらいはわかっているので、こっそり隠し持っている。

 仕事で疲れたときなどに、それらを見ると不思議と癒される。そして、さっさと仕事を終わらせれば華蓮の元へ行けると思うと、俄然集中力が増す。

頭の片隅で華蓮のあられもない姿を想像しながら、小難しい経理の計算をすることができるくらい俺の脳の容量は優れている。
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