天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
  誰かと勘違いしているのだろうか。男の声は聞いたことがない低い音だし、禁軍の武官は父しか知らない。
 男は私の体を反転させて向かい合わせると、目を細めて私の顔を見つめた。そして、私の頬を壊れやすい装飾品を触るようにそっとふれる。

「やっと見つけた……俺の花嫁」

 男は(いつく)しむような瞳で、とても優しい声で囁いた。
 その瞬間、ある人を思い出した。

「まさか……」

 声が震える。聞いたことがないと思っていた男の声は、優しさを含んだ甘い声になると、聞き慣れた愛しい人の声と重なった。
 筋肉質で引き締まった体に高い背丈で、雰囲気がまったく異なっているけれど、整った秀麗な面立ちは見覚えがある。
 八年が経ち、驚くほど変わった彼に気がつかなかった。

雲朔(うんさく)……?」

 戸惑いながら尋ねると、男は顔をくしゃっとさせて優しい笑顔を向けた。

「そうだよ、華蓮(かれん)。ずっと会いたかった」
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