天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
(あの日のことを思い出すわ。一夜にして全てを失ったあの日。また逃げなければいけないなんて)

 盾公よりも残虐だといわれている新皇帝の妃になってしまったら、どんな酷い目にあうかわからない。

 それに、私は雲朔のお嫁さんになると決めているのだ。

……もう、雲朔はいないとしても。その事実に一瞬落ち込みそうになったけれど、慌てて頭を切り替える。今は落ち込んでいる時間はない。

 小高い山の頂上まで辿り着き、身を隠せるような木々が生い茂ったところに腰をおろす。

(ここまで来れば大丈夫。もし錦衣衛が探しに来たとしても、日が暮れているだろうから見つかりっこないわ)

 夜の山は怖い。暗闇が身を隠したとしても、そこで一夜を過ごしたくはない。

(亘々は大丈夫かしら。早く帰ってほしいものだわ)

 こんな辺境な田舎にまで探しに来るなんて、よほど妃候補がいないのだなと思った。

(残虐な皇帝の妃になんて誰もなりたいとは思わないわよね。自業自得だわ。ただのはた迷惑よ)
< 64 / 247 >

この作品をシェア

pagetop