天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
でも、逃げるという選択肢はなかった。亘々がいない世界で、何もかもなくなってしまった中、生き延びてどうするというのか。

 天涯孤独になるくらいなら、亘々と一緒にあの火の海に放り投げられた方がましだ。

(嫌だ、嫌だ! 亘々お願い、私を一人にしないで)

 体は限界をこえて悲鳴を上げている。でも、心の痛みの方がまさっていた。

 汗だくになり、今にも倒れそうなほど消耗しきっているが、足を止めることはない。足を止めたら、もう立ち上がることはできないとわかっていたからだ。

 山をおり、燃え盛る村に立ち入る。

 村はとても静かで人の気配は一切しなかった。

 フラフラしながら亘々と住んでいたボロ平屋の前まで辿り着くと、一気に力が抜けて膝から崩れ落ちた。

 平屋は燃えていた。大きな炎に包まれて黒くなった建物が見えるだけだった。

「あ……あっ……あ」

 大粒の涙が溢れだす。これまで堪えてきたものが崩壊するように溢れだした。

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