天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
あの頃の私は、上等な襦裙(じゅくん)を身に纏い、紗(うすぎぬ)を肩に羽織って、銀の豪華な簪(かんざし)までつけていた。

 今では泥団子を投げつけてきた村人たちよりも粗末な継ぎはぎだらけの短褐(たんかつ)だ。そりゃため息だって出る。

 八年も前のことなのに、昨日のことのように思い出せる。

荘厳な宮廷も、贅を凝らした小離宮も。そして、彼の不器用な微笑みも。

 凄惨で痛ましい思い出の中に、大切で温かな記憶もある。

腹が立つときや、惨めな気持ちになったときに彼を思い出すと、眠っていた矜持が湧いてきて背筋を伸ばして前に進める。

私にとって彼との約束は、心のよりどころなのだ。

……たとえ、もう叶うことはないとしても。


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