天帝の花嫁~冷徹皇帝は後宮妃を溺愛するがこじらせている~
  漆黒の甲冑に身を包んだ男は、背が高く引き締まった体をしていた。

 流れるような黒髪に、精巧な金細工のような整った顔立ち。溢れ出る気品と冷酷な雰囲気は見る者を圧倒する貫禄がある。

 錦衣衛にしては猛々しく、しっかりと体を鍛えているのが一目でわかるので、もしかしたら禁軍所属の武官かもしれない。

 この世の全てを憎み、絶望し、呪うような目で、声をかけてきた人物を睨みつける。

 男は、私を見ると固まったように動かなくなった。驚きが顔に出ている。

 殺すなら、さっさと殺してほしい。

瞳から一粒の涙が零れ落ちる。この涙は恐怖でも、悲しみでもない。ひたすら悔しかった。どれほど恨んでも足りないほどだ。

新皇帝が、憎い。

 男は二、三度瞬きをすると、我に返ったようにゆっくりと歩み寄ってきた。

逃げるなら今しかない。

 逃げる気力も体力も残っていないと思っていたが、迫りくる死を前にしたら不思議と力がみなぎってくる。

 駆け出して山に逃げ込めば勝機はあるかもしれない。

でも、その後は?

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