パティシエ総長さんとコミュ障女子
全身の毛が逆立つような感覚がした。
助けなきゃ。そんなことはとうの昔に分かっている。
だけど、脚が、身体が、動かない。
トラウマが、私を止めている。
弱虫、自分が嫌になる。
友達一人助けられなくてどうするんだ!!
なんで、こんなところから蓮を見つめることしかできないのだろう。
「てめーいつの間にかコミュ力高い系女子デビューしてたのか知らないけどさ、マジ痛いしお前に合わねぇよ。柳田も宮川もかわいそ。こんな偽陽キャに付きまとわれて。」
「あいつらも蓮を選ぶなんてセンスねーよな!」
いきなりゆっこと私の名前が出てきて、体がびくりと反応する。
ぎゃはは、と高らかに笑う3人が悪魔に見える。
そんな時、蓮が素手で一人のローファーを掴み、彼女の足を止めた。
「ふざっけんじゃねえ!!!!!何にも知らないくせに!!!ゆっこと凛を悪く言うな!!!」
私の耳までビリビリと震えるくらい大きな声で蓮が叫んだ。
蝉が一瞬鳴き止む。
3人が慌てて耳を塞いだ。
「て、めぇ…!あーあ、私、キレたわ。」
売り言葉に買い言葉、案の定彼女たちはヒートアップした。
蓮の横顔がキラリと光る。
涙だ。
蓮が泣いている。
突如、動かなかった足が動いた。
限界まで上がった呼吸と心拍を感じなくなり、私は何も考えずに走った。
「蓮っ……!」
助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ。