パティシエ総長さんとコミュ障女子
どういうこと…?蓮はそんなに私にお礼をしたかったの?
いや、そんなことない。自分で自分を否定する。
蓮は、そんな子じゃない。
私たちの関係を「お礼」で済ませるような子じゃない。
もっと、私たちを、本当の友達として大切に思ってくれているはずだ。
わざわざ、お礼をしたいって言うなんて、何があったのだろう。
何かが引っかかって、私は思わず蓮を呼び止めた。
「蓮!」
振り向く蓮。
寂しそうな顔を私に向ける。
ああ、やっぱり。普通の蓮じゃない。
もしかして、これは彼女なりのSOSを出しているのではないだろうか。
そんな考えがよぎり、気づいたら蓮の手を引いて、店に入れていた。
「お、お礼、思いついた!ちょっと手伝ってほしいことがあるんだ!」
蓮の顔がぱあっと輝いた。
蓮を店に上げ、竜司くんを呼ぶ。
「竜司くん、今日から蓮も勉強教えてくれるから!」
咄嗟に思いついた言い訳をする。
店の奥から出てきた竜司くんが、驚いたように私たちを見た。
「原田…?」
蓮が竜司くんに頭を下げた。
蓮の泣き腫らした目に竜司くんはとっくに気づいているらしい。
私に「大丈夫か?」と目配せしてくる。
私は彼に「大丈夫」と目で語りかけ、蓮と共に竜司くんの家に上がった。
その間、蓮は恐ろしいほど静かだった。
竜司くんは、私たちの雰囲気を察したのか、飲み物を持ってくると言って、部屋から出て行った。