パティシエ総長さんとコミュ障女子
「私が児童養護施設に行くことになった理由はね、親からの虐待。」
部屋にはクーラーの音だけが響いている。
震えそうになる声を必死に堪え、話を続けた。
「私、なんで愛されなかったんだろうね。父親は、私を見捨てた。母親は、私を痛めつけた。私に唯一愛情を注いでくれる頼みの綱が無かったの。毎日毎日、アザが絶えなかったよ。傷は減るどころか毎年毎年増え続けた。心まで傷つけられた。私は母親にとって都合のいいサンドバッグだったんだよ。」
蓮が泣いている。
「私、親のことが大嫌い。私をいじめたあいつらも大嫌い。私が毎日アームカバーをつけている理由、なんとなく分かるでしょ…?」
微笑むことに努めた。
「私を傷つけるのは、あいつらだけで十分だったのに、私自身が私を傷つけるようになったの。そして、うつ病も患った。」
「凛、もう話さなくていい。辛かったよね…ごめん…」
突然、蓮に抱きしめられ、蓮の体温が私を包む。
その温かさに、話をしている間に凍りついていった心が溶かされていく。
いつのまにか涙がポロポロと溢れていた。
「蓮、あなたは強い。自分で自分を克服して、状況を打開できる強さがある。自分を傷つけて、時には死を選びかけた私には無い強さだよ。だから、誇りを持って。過去に向き合って。」
「遺言みたいなこと言わないでよっ…。ごめん、自分勝手なこと言ってごめん…。私だけが不幸みたいなこと言ってごめん…。」
蓮が泣き笑いの表情でそう言った。
「蓮は、いい子だよ…。本当は悔いていることもたくさんあるでしょ?過去のことはもう良いんだよ。過去を割り切って、強く生きてよ。それが蓮の魅力だよ。」
そう伝えて、私は蓮に抱きついた。