パティシエ総長さんとコミュ障女子


「まったく…」


突然、体が軽くなる。


「え?」


私は空中にいた。

瑠衣の腕にしっかりと抱えられて。

見上げると、瑠衣の綺麗な顔が近くに見えた。

しっかりとした胸板が感じられる。


「あっ…あっ…」


口をパクパクさせて小さくパニックになった。

これ、噂のお姫様抱っこ…!

また顔に熱が集まる。

恥ずかしくても、今は頭突き材料がないから、手で顔を覆うことしかできない。

顔の熱さに眩暈が拍車をかけてただただくらくらする。


「う〜ん……ごめん…瑠衣…」


意識が薄くなっている中、私は何を思ったのか、つぶやいた。


「瑠衣……私のそばにいてよ。寂しい。」


涙が一筋頬に伝った。

しんどかった過去が頭をぐるぐると回った。

世間に味方は全然いなくて。みんなが私を指さして笑った。

あの笑顔、あの『可哀想な子』というように向けられる上部だけの同情の顔。

あれがずっとずっと大嫌いだった。

家族にも迷惑をかけた。

私がいるせいで、お母さんもお父さんも、『もっときちんと教育しろ』と言われていたのを知っている。

ずっと自分を責めた。

人並みの生活がしたくて、頑張って頑張って……

動かない体を無理やり動かし、出ない声を無理やり出し、動かない表情を無理やり動かした。

専門的な療法も受けずに、自力で、場面緘黙を克服した。

吐くほど頑張り、無理をした。

ああ、疲れた。

今すぐにでも寝てしまいたい。

何度そう思ったことか。

今思うと、「寝たい」は「消えたい」の裏返しだったんじゃないかなって思う。

寝ることが、私の逃げ場だったから。
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