パティシエ総長さんとコミュ障女子
「おう、やんのか?ボケ。てめぇも女とキャッキャしているんじゃねえよ下衆野郎。」
一瞬怯んだ雅也が威勢を取り戻し、瑠衣に詰め寄った。
「私のこと?」と蓮が自分を指差し、青くなる。
その蓮を、慎吾がなだめ、下がらせた。
「あぁ?先輩に向かって下衆とは、いい度胸じゃねえか。」
「だから先輩じゃねぇっつってんだろうが。俺は年下じゃねえんだよ!」
ピリリと張り詰める空気。
ど、どうしよう、地獄だ……。
壮助も怒りがおさまっていないらしく、瑠衣と共に雅也を睨んでいる。
その時だった。
ホールの扉がすごい音を立てて開いた。
ホールにいる全員が扉に、いや、出入り口に立っている人物に釘付けになった。
「いい加減にしやがれ!!!」
その人物は誰よりも大きな声で怒鳴った。
ただ、その声は冷静さを欠いてはいなかった。
「そ、総長…。」
雅也の体から力が抜ける。
ホールにいる全員が立ち上がり、竜司くんに頭を下げた。
珍しくしっかりとワックスで整えられているウルフの長い髪の毛を掻き上げながら、竜司くんは雅也たちに詰め寄る。
その過程でちらりと尻餅をついた私を見て、驚いた顔をした。
「総長室で、話を聞かせろ。対応はそれから考える。関係者はついて来い。」
雅也も竜司くんには逆らえないのか、おとなしくなった。
竜司くんが私に手を差し出す。
「大丈夫か?」
その心配そうな優しい表情に、胸がぎゅっと苦しくなった。
私を心から心配してくれている。
いつまでも、この変な感覚には慣れないんだろうな…。