パティシエ総長さんとコミュ障女子


「僕も賛成です。」


次にそう言った人物に驚く。

慎吾だ。

「予算削減」とか言って1番反対しそうな顔しているのに…。

そんな私たちの視線に気付いたのか、彼はちょっと気恥ずかしそうに横を向いた。


「言っていませんでしたっけ?僕旅行が好きなんですよ。」


ザ・インテリという感じの彼の可愛らしい一面が見えた気がした。


「あー…俺も賛成。暇だし。」


瑠衣も手を挙げる。


「その心は?」


私が瑠衣をつついて囁くと、瑠衣もそっぽを向いた。

言葉にこそ出さなかったが、彼も進んで旅行に行きたいのだろう。


「良いよ。俺も賛成に一票。」


竜司くんがふっと笑いを溢して手を挙げた。

そして、全員の視線が私に向くのを感じた。


「あぁ…私は……。」


無意識に腕をさする。

私がアームカバーをしている理由なんてもうバレているようなものだ。

旅行に行ったらおそらくこの腕を晒すことになる。

その覚悟が決まらず揺らいでいた。

一度深呼吸して心を落ち着かせる。

何怖がっているんだ。

数ヶ月過ごしてきて、よく知っているじゃないか。

蓮もゆっこも私のことを理解して認めてくれる。

なぜ彼女たちを信用しないんだ。なぜ私だけ裏切ろうとしているんだ。


「行くよ!楽しみだね!」


パッと顔を上げて微笑む。

蓮の顔に安堵の色が浮かんだ。


「全会一致だね!!よし、予定立てよう。時間もないし。」


一度やる気になった蓮はすごい。

一瞬でスマホを取り出し、メモアプリを開く。

あっという間に計画表ができていく。

期待に胸が高鳴った。

涼しいホールには、双竜会の会員たちの談笑の声が響いていた。

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