パティシエ総長さんとコミュ障女子
「わっ…すごい雰囲気…」
蓮の顔が引き攣る。
相変わらず考えていることが分かりやすくて微笑ましい。
「え?竜司くん、これマジで民宿なの?有名旅館とかじゃなくて?」
蓮に質問され、竜司くんも首を捻る。
「あぁ、そのはずなんだけどな…。建て増ししたのか…?」
目の前にある建物は、貫禄のある和風建築。
誰もがこじんまりとしてシンプルな民宿を想像していただろう。
しかし、期待の斜め上をいく大きさと貫禄に驚きと困惑を隠しきれない。
素人目線でも分かる、美しく豪華な装飾。
冷房の効いた中に入ると清潔感のある和風のロビー。
「おぉ〜」
ゆっこが感心したように唸った。
慎吾は血眼になって家具を見て値段を判別しようとしている。
「いらっしゃいませ。」
声をかけられて振り向くと、中年の男性が微笑んでいた。
「久しぶりっす、村松さん。」
竜司くんが軽く頭を下げた。
村松さんと呼ばれた男性の後ろのドアからもう一人、若い人が出てくる。
それにしても若い。私たちと歳もあまり変わらなそうだ。
「あ、竜司さん、いらっしゃったんですね。」
村松さんとそっくりな優しい笑みを浮かべて礼をする。
細身の男性で、笑うと目が細くなりえくぼができる顔立ちの整った人だ。
「よぉ悠馬、元気にしてたか。」
「はいおかげさまで。」
竜司くんと仲良さげに話している。
悠馬と呼ばれた少年の身長はあまり高くなく、身長の高い竜司くんと並ぶと凸凹コンビだった。
「よぉ悠馬もうパキってないだろうな。」
ひょっこり後ろから顔を出した瑠衣が片手を上げて悠馬に話しかけた。