パティシエ総長さんとコミュ障女子
「星が綺麗だぁ…。」
独り言が漏れた。
濡れた髪が風に靡いて、涼しい風が首元を吹き抜ける。
風呂から上がって熱った体に気持ちがいい。
夏の夜空を見て、知っている星座を探すが、天の川と近くの有名な星座がかろうじて分かるだけで、あまりにも星が多すぎて教科書に出てくるようには分からなかった。
蓮とゆっこが気を遣ってくれて、私は先に一人で風呂に入ってしまった。
二人が入ってきたのは私がすでに脱衣所で部屋着と新しいアームカバーを着用し終わった後だったから、全く一緒に入っていない。
一緒に入らなかったことは少し後悔しているが、腕を晒すことに対する心の準備が出来ていなかったことも事実だ。
男子たちも二人と同じくらいのタイミングで大浴場に行ったらしく、今は私一人の暇な時間だ。
「星が綺麗でしょう?次は星座早見を持ってくることをお勧めしますよ、宮川様。」
「宮川様」なんて聞きなれない呼び方をされ、ギョッとする。
振り向くと、あの、目を細めた優しい笑みを浮かべた少年がいた。
「あっ…えっと…」
「松村悠馬です。悠馬で構いませんよ。」
心臓が鈍い音を立てた。
近づきたくない、って心に誓ったばかりなのに。
「不躾な質問で申し訳ないですが、あなたは、竜司さんの何なんですか?」
笑顔で不躾すぎる質問をしてくる悠馬。
「何……って…友達、ですけど。」
「そうですか。双竜会の『姫』の座狙いではなく?竜司さんの体目当てではなく?」
笑顔だけど、目が笑っていなかった。
私と身長も大して変わらない男だけど、どうしようもなく不気味で、どうしようもなく威圧感のある男だ。
「そんなこと…」
「知っていますよ。あなたがそんな人ではないことくらい。」
私の言葉を遮って、ははは、と笑う悠馬。
「あんたは僕と同類だ。」
ゾワゾワと鳥肌がたった。
さっきまでの丁寧な言葉遣いは一体どこへいったのだろう。
仮面のような笑みも消えて、真顔だった。
細目の整った顔立ちだが、やはりどこかイカれた雰囲気が漂っている。