パティシエ総長さんとコミュ障女子
「このアームカバーの下は、どうなっているの?ねえ、どうなっているの?」
私の左腕を右手で掴まれる。
ギリギリとすごい握力で締め上げられ、恐怖を感じた。
「ルリちゃん…辛かったよねえ、頑張ったねえ。」
「え?私ルリっていう名前じゃないです!」
悠馬の言動が段々と支離滅裂になってきている。
「ルリちゃん…久しぶりだね、どこ行ってたの?知ってるよ……僕ルリちゃんの一番近くにいたから。腕、傷だらけなんでしょ?消えない傷跡がたくさんあるんでしょ?大丈夫僕がまた愛してあげるから。」
「違う違う!私はルリじゃない!!」
私の左腕を掴む悠馬の右腕を、掴みかえす。
「何?痛いなぁ。ルリちゃんは僕の女でしょ?」
悠馬の腕が私に伸びてくる。
「いい加減にしてください!殴りますよ!」
体を触られそうになり、咄嗟に避け、右腕の拳を素早く後ろに引いた。
「凛ちゃんはお前の女じゃねえよ、目ぇ覚ませ悠馬。」
そのとき、芯のある低い声が響いた。
悠馬の頬目掛けて拳を繰り出していた私の右腕と、私の体に伸ばされていた悠馬の左腕が、同時に強い力に抑えられて動きを封じられた。
ふわりと香るシャンプーの匂い。
鎖骨まで伸びたウルフのサラサラな髪。
「竜司くん…!」
「竜司さん…」
私は右腕から力を抜き、悠馬も我に帰って左手を下ろした。
竜司くんの両手は私たちの腕から離れた。
「おい悠馬、お前凛ちゃんに何をした?凛ちゃんを傷つけたのか?何勝手に凛ちゃんを自分の女呼ばわりしているんだよ、ふざけるんじゃねえぞ馬鹿野郎。凛ちゃんはお前の女になるほど安くねぇよ、それにお前より何倍も強い。不釣り合い極まりねぇんだよボケ。」
鬼のような形相で悠馬くんの胸ぐらを掴み罵詈雑言を浴びせる竜司くん。