パティシエ総長さんとコミュ障女子
責められている悠馬は今にも泣き出しそうな顔をしていて、目がますます闇堕ちしていく。
あぁ、これはいけない…。
「竜司くん、私は気にしていないから悠馬さんを責めないで。」
竜司くんに静かに耳打ちして、微笑みかける。
納得がいかない、という顔をした竜司くんだが、大丈夫、と伝えて悠馬と向き合った。
竜司くんの手が離れ、力が抜けたように悠馬は地面に座り込んだ。
私はその横にしゃがみ込んで彼と目線を合わせる。
「大丈夫ですよ、一度落ち着きましょう。」
悠馬の呼吸が荒くなって上下する背中をさする。
なんとなく分かってしまった。
「ルリ」というのはおそらく繁華街で出会った女の子だろう。
きっと大好きだったんだ。
そして、もう会えない、遠くに行ってしまった子だ。
もしかしたら……死亡したのかもしれない。
「ルリ」さんは腕に傷があった、苦しんでいた。
自殺したのだろうか。
悠馬は止められなかったのだろう。
別の人に、過去の思い出やトラウマを重ねてしまうことはよくある。
私自身がそれに苦しめられたことがあるから、分かるんだ。
きっと私に、「ルリ」さんの面影を重ねてしまったのだろう。
「私は……ルリさんじゃありません。そしてあなたの女でもありません。絶対に。」
簡単なことでは忘れられないだろう。
私は、あさがお園で傷を癒やされて、竜司くんたちに出会って気力を取り戻しつつある。
傷を塞ぐのは、とてもとても難しいんだ。
「ごめんなさい、あなたの期待に応えられなくて。ルリさん、きっと素敵な方だったのでしょうね。大丈夫です。あなたの中では、ルリさんは永遠ですよ。ずっと、あなたの心の中で励ましてくれます。」
悠馬の頭を撫でる。
サラサラの髪が指の隙間から溢れた。