パティシエ総長さんとコミュ障女子
「ルリ……。」
悠馬の目から涙が一筋溢れた。
それを、グイッと手でぬぐい、悠馬は立ち上がった。
「お恥ずかしいところをお見せしました。宮川様、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません。」
寂しそうに笑った彼は頭を下げた。
私はそっと両腕を広げる。
「少しだけなら、ルリさんだって思っていいですよ。」
隣で竜司くんが息を呑むのが聞こえた。
目の前にいる悠馬はしばし躊躇って私の目を見た。
私は笑って頷いた。
「すみません…」
悠馬は数歩私に歩み寄り、私の体に手を回した。
先ほどのように乱暴な調子ではなく、恐る恐る、割れ物を扱うように。
ルリという少女が、どのように彼を抱いたのかは分からない。
だから、私は突っ立っているだけだけど、自分からは抱きしめてあげられないけれど、少しでも力になれたら嬉しい。
「おい、いつまで凛ちゃんに触ってんだバカか、甘えてんじゃねぇよメンヘラ。」
突然竜司くんが悠馬の首根っこを掴んで私からひっぺがした。
大人しくそれに従った悠馬は、すっきりした顔をしていた。
充分ではなくても、壊れた部分の修復ができたのだろう。
「ありがとうございます、宮川さん。」
「あ?お前は永遠に様付けで呼べ。」
悠馬は私と竜司くんにぺこりと頭を下げて建物に入っていった。
星空の下に残された私と竜司くんの間に沈黙が流れる。
先に口を開いたのは、私だった。
「竜司くん、来てくれてありがとう。」
「あぁ……なんか嫌な予感がして風呂早めに切り上げてきたから良かったけどよ。俺が来なかったら凛ちゃん、悠馬のことボコボコにしていただろ?」
「えへ…」
「えへじゃないだろ!」
くすくすと笑い合うこの感覚に安心する。