パティシエ総長さんとコミュ障女子
「私、本当に嬉しかったの。竜司くんが来てくれなかったら何が起きてたか分からない。相性が悪かったんだよ、私と悠馬さん。ヒートアップしてどっちも無事じゃなかったかもしれない。」
冗談を交えて言ってみるが、竜司くんは優しく笑うだけだった。
「あいつ、メンヘラだろ?」
こくりと頷く。
「竜司くんはさ、あの人を助けたんだよね。」
「…あぁ。」
竜司くんも頷いた。
「繁華街で拾ってさ。今にも死にそうですって顔していた。本当に死にかねなかったんだよ。何もかも失った、もう何もない、って、昔の俺みたいな顔してた。それにタメだったし。」
「うん。」
「だっせー助け方したんだけどな。あいつの親父が御神楽会に所属していると聞いた。だから……」
竜司くんはちょっと言いづらそうに口篭った。
「組長…俺の親父に土下座して頼み込んだんだよ。『松村さんを見逃してあげてください、お願いします』って。俺にはまだ大した力が無かった。双竜会は弱かった。」
「でも、助けたのは事実でしょう?」
「まぁそうかもな…。たまたま松村さんが双竜会に所属してまだそんなに月日が流れていなかったから、引き剥がせたんだよ。悠馬の薬中を治すのが大変だった。シンナーとか違法薬物にまだ手を染めていなかったからギリギリ助けられた。悠馬は頑張ったんだよ、あいつなりにね。信じられないほどメンヘラだけど。」
微笑んで言葉を切り、竜司くんは空を見上げた。
「綺麗な星空だ。」
「だよね。」
二人して空を見上げると、前もこんなことがあった気がする、とデジャヴを感じた。
初めてじゃない、前にも二人で……。
いや、そんなわけないか。