パティシエ総長さんとコミュ障女子
「凛ちゃん、ちょっと触っても大丈夫?」
突然聞かれ、竜司くんの顔を見た。
彼の顔は、空を見上げていて見えなかった。
「うん。」
答えると、竜司くんの手が頭に乗った。
そのままもう一方の手が私の体を包み込んだ。
「えっ…」
でも、それ以上のことは無かった。
軽くバックハグをされて、そのまま二人で星を見上げた。
密着しているわけでもなく、ほのかに竜司くんの体温が感じられる。
「本当に、『ちょっと』だね、正直だ。」
面白くて笑いをこぼす。
「はは、まぁな…」
曖昧な答えが返ってきて、そっと顔を撫でられる。
あぁ、安心する。
ただ、鼓動が速くなる。
きゅっと胸が締め付けられる。
「なぁ、俺らさ……前にも会ったことあるのかな。」
静かな声で竜司くんが言った。
「……分からない。」
なぜ、竜司くんとは話しやすいのか、竜司くんといると安心できるのか、本当にわからない。
ただ、懐かしくて、安心する。
優しく抱きしめられたことなんて、無いはずなのに。
涙が一粒、無意識に頬を流れた。
竜司くんの親指が、私の涙を頬で拭った。
「冗談だよ、凛。」
竜司くんが低く呟いた。
あれ、呼び捨てにされた。
甘い声に、なぜか心臓がバクバクとうるさい。
顔が熱いが、気のせいだと思い込む。
私たちはしばらく夜風に当たりながら、宝石を散りばめたような夏の空を見上げていた。