パティシエ総長さんとコミュ障女子
瑠衣side
「うあ〜極楽〜〜!」
貸切状態の大浴場の湯船に浸かり、全力で脚を伸ばした。
「あぁ…仏が見えます……。」
俺よりもさらにご満悦で、本当に極楽に行ってしまいそうな勢いの慎吾が隣で同じように伸びていた。
こいつのクセは独特で、常に敬語で喋っているが、たまにそれがシュールで面白い。
慎吾が敬語を外して喋るところを一度見てみたいものだ。
「竜司さん、あいつ可哀想な奴だなぁ。この極楽をまともに味わわないで出ていっちまって。」
「んぶぶぶぶぼぼぼ………」
宇宙語の幻聴が聞こえた気がして、隣を見ると、慎吾が鼻まで水中に入って泡をぶくぶく出していた。
「なんやお前…」
「んばばばぼぼぼぼ……ぼぼぼ……」
あ、その声で質問に答えているんだ。
呆れてしまう。
慎吾の奴、敬語だし、メガネかけたらクッソインテリだしで「まともな人」だと思われがちだが正直俺らの中で1番おかしな奴だと思う。
いつもアイロンのしっかりかかったYシャツを着て、正確に組織の予算管理をして、テキパキとしていて、常にキリリと引き締まった顔をしている慎吾だが、この裏の顔を見たら誰もが冷めるだろう。
ただ、顔は生まれ持ったものなので、常にキリリと引き締まっている。
だから、今、キリリと引き締まった顔をした全裸の男が、鼻まで温泉に浸かって「んぼぼぼぼぼ…」とやっているわけである。
なかなかにシュールだ。
「今女子風呂の方では胸の話でもしているんだろうな。」
何気なくそう聞くと、お決まりの「んぼぼぼぼ」が返ってくる。
「それ会話できなくてつまんないからやめてもらえないか?」
そう言うとぬるりと慎吾の上半身が水面に出てきた。
これは……ギャグなのだろうか…拾った方がいいのだろうか……。