パティシエ総長さんとコミュ障女子
3限と4限の間。
トイレに行っていた私はギリギリの時間で教室の移動をしており、廊下を小走りしていた。
なんでこうも初日から遅刻の心配ばかりしているのだろう。
うんざりしながら暑い廊下を走る。
この先の階段を降りたら目的の教室はすぐそこだ。
必殺2段飛ばしで階段を駆け下り、角を曲がったら教室に着く、というところだった。
ドン……!!
「げっ…」
「わっ…!」
体に衝撃が走り、後ろに跳ね飛ばされる。
驚きのあまりまともに受け身が取れず、無様に尻餅をついてしまい、教科書や文房具が大きな音を立てて床に散らばった。
人とぶつかった。
ぶつかった相手は背の高い男子生徒だったようで、多少よろけただけで済んだらしく、目の前にやたらと新しい上履きが見えた。
「おい、大丈夫か?」
「だっ……大丈夫ですっ!すみません前見ていなくて。」
相手に声をかけられたが、まともに聞こえなかった。
恥ずかしさで顔が火照るのを感じながら、俯いたまま慌てて教科書を拾う。
髪の毛が乱れて顔にかかっているが、気にしている余裕がなかった。
「はい。」
あらかた持ち物を集め胸に抱えた時、視界に男の人の手が現れた。
大きな手には私のボールペンと参考書が握られている。
「あ、ありがとう………って……え?」
ボールペンに手を伸ばしかけてやっと冷静になった。
妙に聞き覚えのある声だ。
耳を疑った。
そんな…嘘……。
絶対にここでは聞こえないはずの声。
低くて、甘い、優しい声。
毎日のように聞いている、安心する声。