パティシエ総長さんとコミュ障女子
手が小刻みに震えた。
よく動かない首を上に向けた。
「あ………」
上擦った声が出た。
「竜司……くん…」
見知った顔があった。
ウルフの長髪がサラサラと肩に乗っていた。
涼しげな目をしているが、口元は優しく微笑んでいて、目の奥も優しげだった。
後光の見えるような綺麗な顔立ちは、紛れもない、あの、私が見知った総長だ。
「ぶつかっちゃってごめんな、凛ちゃん。怪我ないか?立てる?」
心配そうにこちらに手を伸ばす竜司くん。
竜司くんが…なぜ…ここに……?
理解ができず、ただ無闇に心拍数が上昇していくだけだった。
「だ、大丈夫…。こちらこそごめん。」
頭を振って、冷静さを取り戻そうと躍起になる。
とりあえず、差し出された手を握り、立ち上がった。
「髪、乱れてる。」
そう言って、私の頭に手を伸ばす彼。
「だ、大丈夫だよそれくらい…。」
パニックになって後ずさろうとするが、ああ、悲しや、後ろはコンクリートの壁。
木造だったら突き破って逃げようかと考えたかもしれないが、流石にコンクリートは無理なので、迫る竜司くんを回避できずに突っ立っているしかなかった。
目を瞑っていると、髪の毛を動かす感触がした。
「はい、オッケー。綺麗なボブに戻った。」
しばらくしてそんな声が聞こえて恐る恐る目を開けると。
「近っ…!」
すぐ近くに竜司くんの顔があった。
恐ろしいほどの美形を目の前にするなんて経験なんて、なかなかな無い。
不思議な気恥ずかしさで、顔がさらに熱くなってしまった。