パティシエ総長さんとコミュ障女子


「っ……、授業、始まるから。」


そう言って竜司くんの胸の前から抜け出す。


「あぁ、行ってらっしゃい。」


微笑んで言った彼が、そっと私の耳元に顔を近づけた。


「サプライズ」


そう、優しく低い声で囁かれた。

耳に吐息がかかり、ゾクゾクとした感覚が背中に走った。


「なっ……!」


右耳を押さえて飛び退く。

悪戯っぽく笑った彼は、人差し指を唇に当てていた。

うわあ、無駄に色っぽい。


「相変わらずすごい反射神経。」


最後まで聞かなかった。

時計を見て、秒針があと10秒ほどでチャイムがなることを告げていたから。

そして……一旦竜司くんから逃げたかったから。

あぁ、なんでだろう、すごくペースを乱される。

頭が混乱して、おかしくなりそう。

分からない、分からない。

私の今の気持ちが、自分でも分からない。

心臓がおかしなほどドキドキしていて、冷静でないことだけは確かだ。


走って教室に入ると、クーラーが効いていた。

自分の席に座り、突っ伏す。


「サプライズ」


竜司くんの言葉がなん度も頭の中で反響した。

そういえば、この前の旅行で竜司くんが言っていた気がする。

「重大発表がある」って。そして、「秘密」って。

もしかして…もしかして……。


これのことなの……?


火照った体がクーラーで冷めていく。

考えれば考えるほど、その説が正しい気がしてくる。


「悪趣味だよっ………」


頭を抱えてそう呟いた。
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