パティシエ総長さんとコミュ障女子


「ちょっと、凛!どうしたの、ぼーっとして!」


目の前で手をひらひらと振られて、一気に現実に引き戻される。


「ご、ごめんごめん、今なんの話だっけ?」

「もー、具合でも悪いの?」


不満げな表情の蓮が私の顔を覗き込んでいた。


「んーん。具合が悪いというか……心配事というか……。」


モゴモゴと答える。

ゆっこまでが私のぼんやり加減に心配そうだ。

今は昼休み。

教室で、蓮、ゆっこと共に昼食を食べている。

パンを機械的に喉に落とし込みながらも、どうにも心ここに在らず、という感じになってしまう。


「ねぇ、あのさぁ……もし……」


——もし、竜司くんがうちの学校にいるって言ったら、どうする?

その言葉が私の口から出ることはなかった。

廊下が突然騒がしくなり、私の言葉をかき消したのだ。


「またぁ!?なんか今日度々校内がうるさいなぁ…。」


蓮が眉を顰めてお茶を飲み干した。

薄々その騒動の元凶に勘づきながらも、私は黙っていた。

その時、教室のドアが開いた。

その途端、一気にざわめきも大きくなった。


「っ………」


見なくても分かる。

きっと、竜司くんだ。

なんで、来ちゃうのよ……。

唇を噛み締めて、下を向く。

私が目立ちたくないって思っていること、竜司くんなら把握してくれていると思っていたのに。



「瑠衣」



は…?

思っていたのとは違う名前が聞こえた。

間違いない、声はすごく不機嫌だけど、竜司くんだ。

だけど、呼ばれたのは私じゃない、瑠衣…?


「えっ………」

「嘘…!?」


隣で、ガタンと大きく椅子の鳴る音がした。

蓮が立ち上がっていた。

ゆっこは、口を押さえている。
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