パティシエ総長さんとコミュ障女子
「あの、ところでなんだけどさ。」
蓮ちゃんが話題を変えた。
「凛ちゃん、その腕のアームカバー、暑くないの?」
体がびくりとする。
私は、半袖になってからずっと、腕にアームカバーを付けている。
「あー、これね……。普通に日焼け止めだよ。」
声の抑揚をできるだけ抑えて応え、微笑んだ。
「ふーん。建物の中くらい外せば良いのに。」
蓮ちゃんが興味津々といった顔で見てくる。
「それは、だめ。」
珍しくキッパリと断った私に、蓮ちゃんの表情が引き攣った。
「なんで」
「絶対、だめ。」
はっきりと目を見て断った。
はっきりとものを言うよほど珍しかったのだろう。蓮ちゃんの顔はすごく狼狽えていた。
「もう良いでしょ、蓮。凛ちゃんが嫌だって言っているなら深堀りはするものじゃないよ。」
張り詰めてしまった空気の中、ゆっこちゃんが蓮ちゃんをたしなめた。
「蓮なら分かるでしょ。誰でも言いたくないことのひとつやふたつ、あるものよ。」
その言葉を聞いて蓮ちゃんはハッとした顔をした。
「凛ちゃん、ごめん。」
私に頭を下げる蓮ちゃん。
「ご、ごめんって、こちらこそ…!」
まさかこんなに真剣に謝られるとは思っていなかったし、私自身、別に嫌な気分になったわけじゃないから。
お互い頭を下げてこの話は終わりになった。
ゆっこちゃんが潤滑油となり、私たち三人は良好の関係を築いている。
彼女たちが友達になってくれて、本当によかった。