パティシエ総長さんとコミュ障女子
あぁ……涼しい。
気持ちが良い。
そっと目を開ける。
随分と片付けられた部屋のベッドに、私は横たわっていた。
「うっ…!」
体を起こすと、頭に痛みが走った。
そして、クラクラする。
あ、まずい、これ熱中症と貧血が同時に起こっているんだ。
そう理解して、私はもう一度体を横たえた。
その時、突如部屋のドアが開いた。
「おう、起きたか、腹パンちゃん。」
そう言って部屋に入ってきたのは他でもない、御神楽だった。
彼はベッドに座ると、思考のままならない私の口へ、ペットボトルを近づけた。
「飲めよ。」
スポーツドリンクだった。
口へ流れる冷たい液体が気持ちいい。
体が生き返っていく。
「俺、ここで一人暮らししているからさ、遠慮せずに休みな。」
彼はそう言いながらスポーツドリンクを飲み干す私を見つめた。
無心でスポーツドリンクを飲みつくし、やっと思考が正常値に戻っていく。
御神楽の部屋に上げられている。
こんな状況なのに、不思議と恐怖は感じなかった。
私が弱っているからだろうか。
それとも、御神楽慣れしたからだろうか。
「御神楽……くん。ありがとう…。」
そう言って私は頭を下げた。
「大丈夫。てか腹パンちゃん、あんたバカなの?熱中症でこんなにヘロヘロになって店に入った途端倒れる人なんて初めて見たよ。それに多分貧血だよね。顔真っ白だったよ。無理してたの?」
あぁ、彼にはお見通しか。
染めているようには見えない彼の前髪の間からこれまた髪と同じく色素の薄い目が心配そうに覗いている。