パティシエ総長さんとコミュ障女子


「わっ…!え?な、なんかごめん!」


必死に断る私に、御神楽は面食らって謝ってきた。

唇を噛み締める。

私、あんなに偉そうなこと言っといて、肝心なところで役に立てない。

弱い。すごく弱い。

なんでも病気のせいにして生活している。

本当は逃げている…のに。



「腹パンちゃんが嫌なら無理強いはしないよ。ごめん。……なんとかして人は探す。アイデアを出してくれただけでも嬉しいよ。」



そう言って彼はにこりと笑った。

その笑顔に胸が締め付けられるような変な感覚がした。


「っ…、ちょっと、まってください…。」


私は立ちあがろうとする彼の服の裾を掴んだ。

私が通っている病院の主治医さんが言っていた。

『ゆっくりで良いから、少しずつ、苦手なことも出来るようになっていこう。』

私は、まだ何も前進していない。

少しくらい、頑張らなきゃ。

決めたんだ。あの時。絶対に克服するって。

歪められてしまった私の人生を、もう一度、普通の人と同じようにしたい。

それで、過去のことは綺麗さっぱり忘れようって。


「バイト…します。」


御神楽は驚いた表情をした。


「良いのか…?腹パンちゃん。」


私は微笑んで伝えた。


「私、克服しなくちゃいけないことがあるんです。私の未来のためにも、過去のためにも。コミュ障とか病気とか言ってられません。」

< 34 / 181 >

この作品をシェア

pagetop