パティシエ総長さんとコミュ障女子
でも、私はわかる。
竜司くんのケーキは、涙が出るほど、優しい。
心がこもっているんだ。
「大丈夫?蓮。」
ゆっこちゃんが蓮ちゃんの肩を抱いた。
「っ…大丈夫!大丈夫だよ!!ただ、なんかちょっと悲しくなっちゃって。」
えへへ、と笑う蓮ちゃん。
「分かるよ、竜司さんのケーキ、すごく心がこもっているもん。すごく、痛いくらいの優しさを感じるよね。」
ゆっこちゃんも気づいていたんだ。
でも、泣く、泣かないは個人差があるみたい。
なぜだろう。
ふと瑠衣を見ると、彼は、目を押さえていた。
「瑠衣…?」
私が声をかけて、彼はやっと手を目から離した。
「なんだこのケーキ、催涙薬でも入っているのかよ。」
そう、軽口を叩きながらも、少し寂しそうに笑っていた。
「さ、催涙…?んなわけねぇだろ……。口に合わなかったか?」
蓮が泣き出し、おそらく瑠衣も泣いていた。
困惑した竜司くんが怪訝な表情で二人を見つめた。
「違う違う、おいしすぎるんだよ。」
「ん…。絶対不味くはない。」
泣いていた二人が答えた。
安心したように肩の力を抜いた竜司くんを尻目に、慎吾を見た。
彼は、泣いてはおらず、黙々とケーキを食べていた。
でも、彼の全身の雰囲気から「美味しい」という感情が感じ取れる。
やっぱり、個人差があるのかなあ。不思議だ。
その後、テーブルの周りはある程度和やかな会話に満たされた。
時計の針が、すごい速さで動いていくようだった。