パティシエ総長さんとコミュ障女子

何度生きるのがしんどいと思ったことか。
何度生きるのを諦めようと思ったことか。

それでも、なんだかんだで今を生きている。


「あーやだやだ。暗い気持ちは嫌だ。」


少し大きな声で独り言を呟くと、歩調を速めた。


「あ、ケーキ屋さん」


程なくして、小洒落たケーキ屋が姿を現す。

見慣れた店だ。

入ったことはないけど、高校に通うようになってから毎日見ている。

いつもならスルーするのだが、どうしてだか、この日だけはスルーできなかった。
なぜだろう。
いつもよりお腹が空いていたからだろうか。
それとも、お店の雰囲気がいつもと違ったからだろうか。

私は、店の前で歩みを止めた。


「ケーキ工房、ドラゴン…?変な名前。ケーキ屋の割にいかついなぁ。」


私は、引き寄せられるように入り口に向かっていた。

外開きのドアを引くと、チリンチリンと軽快な鈴の音が響く。

白基調の部屋と、色とりどりのケーキが私を出迎えた。



「わぁ、綺麗な店。ドラゴンって、もっとネーミングセンスも良い名前にすれば良かったのに。」


驚きと呆れが入り混じり、思わず独り言を大きな声で言ってしまう。

その瞬間、店の奥から、エプロンをつけたパティシエらしき人が出てきて…
大きく息を吸ったのが感じられた。
< 5 / 181 >

この作品をシェア

pagetop