パティシエ総長さんとコミュ障女子
何度生きるのがしんどいと思ったことか。
何度生きるのを諦めようと思ったことか。
それでも、なんだかんだで今を生きている。
「あーやだやだ。暗い気持ちは嫌だ。」
少し大きな声で独り言を呟くと、歩調を速めた。
「あ、ケーキ屋さん」
程なくして、小洒落たケーキ屋が姿を現す。
見慣れた店だ。
入ったことはないけど、高校に通うようになってから毎日見ている。
いつもならスルーするのだが、どうしてだか、この日だけはスルーできなかった。
なぜだろう。
いつもよりお腹が空いていたからだろうか。
それとも、お店の雰囲気がいつもと違ったからだろうか。
私は、店の前で歩みを止めた。
「ケーキ工房、ドラゴン…?変な名前。ケーキ屋の割にいかついなぁ。」
私は、引き寄せられるように入り口に向かっていた。
外開きのドアを引くと、チリンチリンと軽快な鈴の音が響く。
白基調の部屋と、色とりどりのケーキが私を出迎えた。
「わぁ、綺麗な店。ドラゴンって、もっとネーミングセンスも良い名前にすれば良かったのに。」
驚きと呆れが入り混じり、思わず独り言を大きな声で言ってしまう。
その瞬間、店の奥から、エプロンをつけたパティシエらしき人が出てきて…
大きく息を吸ったのが感じられた。