パティシエ総長さんとコミュ障女子
竜司side
凛ちゃんが店に来てから、半月と少しが経過した。
6月も後半。
梅雨入りして、しとしとと雨の降る日が続いている。
凛ちゃんの第一印象は、「変な子」だった。
初対面で、鳩尾に彼女の拳がクリーンヒットした。
凛ちゃんは、どこで覚えたのだかご丁寧に、中指を少し突き出してそこに力を集中させてダメージを負わせるという小賢しい技を使っていた。
鳩尾は数日間痛んだ。
その後、紆余曲折あって、凛ちゃんはうちで働くことになった。
茶色くてストレートで細い、セミロングの髪の毛と、大きく、二重のアーモンド目が印象的な可愛らしい女の子。
しっかりした顔立ちをしていて、あまり表情が豊かとは言えない子だ。
たまに自然に笑ってくれるが、無理に笑っている時は笑顔がぎこちないから分かりやすい。
有名な進学校、白虎高校の制服を着ているから、多分相当賢い子なのだろう。
「竜司くん、今日の売り上げ出たよ。」
「ん、ありがと。」
だいぶ俺に慣れてきたのだろうか。
凛ちゃんは最初の頃の警戒を解いて、随分と柔らかくなった。
「今日は帰っていいよ。お疲れ様。」
すでに時刻は6時半を回っていて、雨の降っている今日は道はだいぶ暗かった。
早く返さないと凛ちゃんの親御さん達が心配するだろう。
凛ちゃんはエプロンを取って、束ねていた髪を下ろしたが、店の窓から外を見て動かなかった。