パティシエ総長さんとコミュ障女子
「ねぇ、竜司くんはこれから何するの?」
「何って…明日のケーキの準備だよ。」
振り向いた凛ちゃんの髪の毛がふわりと揺れて、美しい。
「あのさ、もう少し店に残っていてもいい?……雨で帰れなくなっちゃって。」
へへへ、と困ったように彼女は笑った。
こいつ…天気予報見ないで来たのか…。
凛ちゃんは、しっかりとした顔と裏腹に、ところどころ抜けている。
「ああ、いいけど。ちゃんと親御さんに説明しておくんだぞ。」
「ラジャ!」
凛ちゃんは敬礼して、スマホを取り出した。
電話をかける凛ちゃんを見ながら、俺は脇腹を抑えた。
凛ちゃんには言っていないが、昨日、近くの不良集団を潰すために双竜会が動いた。
大したことはないが、戦闘で蹴られた脇腹が痛む。
まぁ、不幸中の幸い…というか、凛ちゃんのパンチに比べたらマシな痛みだ。
「はい、はい。お願いします。すみません。ありがとうございます。」
凛ちゃんが電話を切った。
「竜司くん、もうちょっとここにいてオッケーだって。竜司くんがケーキ作っているとこ、見てみたい!」
「おう。って、なんで突進してくるんだよ…!」
突進してくる凛ちゃんの肩を手で受け止めて、勢いを殺して体を受け止め、俺は凛ちゃんを厨房に入れる。
凛ちゃんの危険な突進癖が治らない。
いや、俺が毎回受け止めてくれるからって安心しているのか?
そういえば、他の人に突進しているところを見たことがない。
なんなんだ、この子は…。
やっぱり「変な子」だ。
そして、何故彼女は親御さんに敬語で話していたのだろう。