パティシエ総長さんとコミュ障女子
いや、深堀りはしないって決めたじゃないか。
邪念を頭から追い払い、俺はボウルを手に取る。
ケーキの生地を作るのだ。
俺が材料を量ったり混ぜたりしている間、凛ちゃんはじっと俺の手元を見ていた。
「面白いの?これ。」
「うん。」
俺が話を振っても、珍しく生返事だ。
随分と熱心にケーキを作る過程を見ている。
そんなに興味があるのだろうか。
「すごいね…作業に無駄が無くて美しい。」
やっと凛ちゃんが話してくれたと思ったらまさかのベタ褒め。
「ありがと。」
まぁ、嬉しいんだけどさ。
俺はクリーム作りに取り掛かる。
こうやって平和にケーキを作っていると、ふと思い浮かぶ。
親父の顔が。
『使えねぇ奴は消せ。』
血も涙もない冷徹な男。
毎晩寝床に女を侍らせ、酒と薬に溺れ、乱暴で、自らの快楽を追い求める親父。
それでも不思議なほどカリスマ性を持ち、顔も身体も良く、戦略性に優れ、何より強い。
だから、今でも親父について行く奴らが多い。
御神楽会は、残酷なやり方で裏社会を支配している。
親父の脅し方は恐ろしい。
今まで何百人の人が斬られたのだろう。
親父の影響で居場所を失った人はどれほどなのか。
今でも、親父の手の上で踊らされている人がたくさんいるのだろう。
俺は、そんな御神楽会のやり方が大嫌いだった。
親父はよく俺に「平和ボケしている」というが、はたしてボケているのはどちらだろう。