パティシエ総長さんとコミュ障女子
「いrrrrrrrrrらっしゃっせぇええ!」
耳を塞ぐ暇もなかった。
ラーメン屋のような「いらっしゃいませ」を叫ぶのは、言うまでもなく、パティシエ本人である。
店の窓をビリビリと震わせる大きな声と、強面の男の人の顔面で私はパニックになった。
「きゃ、きゃあああああ」
ブワッと溢れ出す涙。
叫び声の苦手な私には、あまりの恐怖に、一瞬でとんでもないストレスが溜まり、慌てて耳を塞いでしゃがみ込んだ。
ガタガタと勝手に震え出す体。
「いや、いやぁ!やめて、怒鳴らないで!!」
どんどんパニックに陥って行き、過呼吸になる。頭がぐるぐると回る。
「お、おい、大丈夫かよ!?」
男が近づいてくるのが感じられた。
トラウマが抉られるのを感じた。
私は、あまりの恐怖に正常な判断ができず、涙を流しながら拳を握りしめた。
「やめて、私を苦しめないで!!!!」
「何もしないっつってんだろ!!!!」
怒鳴りあう私たち
最悪の状況だ。
冷静さを欠いた私は泣きながら叫んでいる。
「いい加減にしろよ!」
男は私の肩を掴んだ。
ゾワっと鳥肌がたったと思った。
その瞬間。
どすっ!!
確かに私の拳に伝わる鈍い感覚。
「ぐあっ!!……ってぇ……!?」
どさりと目の前で勢いよく尻餅をつく男。
その、歪んだ顔に、やっと自分を取り戻した。