パティシエ総長さんとコミュ障女子

どうしよう、このまま進んだら、私が児童養護施設に行っているということが確実にバレる。

瑠衣のことだ。きっとからかったりするだろう。

そうなったら、いくら私でも不愉快だ。


「瑠衣、家こっちなの?」

「ううん?別にー。ちょっとこっちの方に用事があって。」

「じゃあ早く行きなよ。」

「ツナちゃんこそ早く帰りなよ。」


お互い一歩も動かない。

私としては、早く瑠衣にいなくなってほしい。

でも、この夏の暑さの下でいつまでも待つのも無謀だ。

暑さ我慢大会が始まるなんて嫌。

それに私は今年すでに熱中症になっている。

2度も熱中症で倒れるなんて馬鹿らしいことがあってたまるか。

私の秘密と暑さを天秤にかけた結果、僅差で暑さが勝った。


……しょうがない、カミングアウトしてしまうか。

私は瑠衣の目を見て息を吸った。


「あのさ」


上手く動かない口を動かして、伝える。


「私、ここが家なんだよね。」

「俺、ここに用事があるんだ。」


……?

ハモった。

お互い、数秒間のラグを経て、困惑した。


「え?」

「は?」

「瑠衣、今なんて?」

「そっちこそ。」


ここ(あさがお園)に用事があるって、どういうこと…?

互いに目をぱちぱち瞬き、首を傾げる。


「え……じゃあ、瑠衣もあさがお園の関係者だってこと…?」

「………あぁ。」


頭が真っ白になった。
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