パティシエ総長さんとコミュ障女子
「ちょっと、一旦入ろうか。」
混乱と暑さで脳内が茹だった私は、瑠衣と共にあさがお園に入った。
「帰りました!」
声が廊下に反響する。
程なくして、パタパタという足音が聞こえてくる。
「あら凛ちゃんおかえりなさ〜い!」
現れたのは、小宮さん。
その小宮さんが、私の隣の瑠衣を見て、目を見開く。
そして、その目がぎゅっと嬉しそうに細まった。
「あら……!」
「瑠衣です。お久しぶりです。」
頭を下げる瑠衣。
「大きくなったわねぇ。」
小宮さんがますます破顔する。
「凛ちゃんとお友達なの?嬉しいわ〜!」
あー…はい、一応友達…なのかな…。
「凛姉さん!お帰りなさい!」
突然、廊下を走る小さな音が聞こえて、ひょっこりと小学校中学年ほどの天然パーマが可愛い男の子が顔を出した。
小太郎くんだ。
彼は10歳だが、私よりも入所歴が長い先輩だ。私にもフレンドリーに接してくれる。
私は、ただいま、というように手を振って微笑んだ。
「あれ…、お兄ちゃん…。」
その小太郎くんが瑠衣を見て固まる。
「よ、小太郎。久しぶり。」
「あーーー!!やっぱり!瑠衣兄ちゃんだ!!!」
小太郎くんの丸くて可愛らしい目が輝いて、彼はぴょんと飛んだ。
瑠衣が小太郎くんを受け止める。
瑠衣がかつてないほど優しい目をしていた。