パティシエ総長さんとコミュ障女子
「二人とも、上がりなさい。小太郎くんは瑠衣お兄ちゃんと話したいのも分かるけど、今は部屋に戻っていなさい。宿題があるんでしょう?」
「宿題なんて終わったよー。俺、小太郎兄ちゃんと一緒にいたい。」
小宮さんの言葉に、靴を脱ぐ私たちと、珍しく駄々をこねる小太郎くん。
瑠衣は小太郎くんを抱き上げて言った。
「俺はいなくならないから。今は部屋に戻っていろ。」
優しい笑顔だった。
彼にそんな優しい笑顔ができるなんて知らなかった。
「……はーい。」
残念そうな小太郎くんが、瑠衣の腕から降りて、名残惜しそうに瑠衣を見ながらてくてくと歩いて行った。
小太郎くんを見送って、私たちは和室に入る。
風鈴がチリンチリンと鳴っていた。
小宮さんがお茶を置く。
「3年ぶりかしら、瑠衣くん。」
「はい、こっちの生活も落ち着いてきたのであさがお園を見にきました。」
「大きくなっちゃって。声変わりもしているわね。嬉しいわ〜。」
瑠衣のふわふわの髪の毛が、風にゆれた。
「凛ちゃんと瑠衣くんは確か、ちょうど入れ違いだったのよね。」
「そうですね…ツナ……いや、宮川さんのことは園を出る前に少し聞いたくらいです。」
うわっ、こいつ私のこと名字にさん付けで呼びやがった。
てかちょっとツナって言っちゃってんの。
なんか腹立つな…。