パティシエ総長さんとコミュ障女子
私は慌てて反対側を向いた。
人と目を合わせるなんて…いつぶりだろう。
人と目を合わせることさえまともに出来ないのだ。
目を合わせると、途端に嫌な汗が流れ、心臓が鈍い音を立てる。
でも、そういえば、さっき、あまりにも自然に男と目を合わせていた。
自然すぎて気づかなかったほどだ。
そーっともう一度男の顔を見る。
男は、もう私の方を見てはいなかった。
彼は、しっかりと口を結んで、前を見ていた。
よく見ると、若い。
同い年か一つ上くらいだろうか。
見惚れてしまうほど綺麗な横顔をしていた。
肩まであろうかという長めの髪の毛をポニーテルに結い、前髪を上げてヘアピンで留めていた。
切れ長かと思ったら意外と大きな二重の目が綺麗に輝いていた。
ドクン…!
心臓が嫌な音を立てる。
どこかで見たことあるような顔だ。
どこかで…どこかで……
頭の中で、ピースがぴたりとハマった。
間違いない。このイケメン。
御神楽竜司だ……。
「あ、あのっ…!」
私は急いで立ち上がった。
「もう、大丈夫ですから!ありがとうございましたっ…!」
一刻も早く退散したかった。
こんな人といつまでも一緒にいたら、何をされるかわからない。
「お世話になりました御神楽さん!!では!」
目を見開く御神楽竜司。
「え?あ、おい!」